成長コラム One Point Column

Doing連載魅力経営のヒント
第13回目:人が育っていく職場、人が離れていく職場(2010年8月号)
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■「募集しても、いい人材が来ません」「人がなかなか育ちません」

先日、ある整形外科の院長A先生の相談を受けました。
A先生は、「医療と癒しの融合」をテーマに掲げ、最新医学情報を常に勉強し、痛みを早く楽にする治療に力を入れています。さらにスタッフ指導も熱心で、おもてなしができる医院づくりを目指していました。
そんなA先生ですが、2つのことで非常に困っていました。

「患者さんに喜んでもらえるように、今までたくさんのビジネス書を読んだり、高額のビジネスセミナーにもたくさん参加して勉強してきました。そして、最新のチームビルディング手法を取り入れ、チームづくりにも力を注いできました。でも、人がなかなか育ちません。やっと芽が出てきて、良い兆しが見え始めたと思ったころに、そのスタッフたちは諸事情で辞めていきました。もちろんスタッフ募集はお金もだいぶかけて年中やっています。でも、全くいい人材が来てくれません。面接に来る多くの方たちは、自主性もほとんどなく、省エネで働こうとしながら、なおかつ自分の権利を主張してきます。ときどきいい方が来たとしても、採用直前に諸事情で辞退したり、働き始めても半年もたたないうちに辞めてしまうのです。一体何が悪いんでしょうか?どうしたらいいのでしょうか?」という大変、深刻な相談でした。

大なり小なり「募集してもいい人材が来ない」「人がなかなか育たない」という2つの問題は、ほとんどの経営者が経験したことのある悩みでしょう。むしろ悩んだことがない経営者など皆無でしょう。

しかし、世の中には、いい人が集まり、人が育っている職場もあります。
一体、いい人が集まり育っていく職場は何が違うのでしょうか?
一体、どうすればいい人材が集まってくるようになるのでしょうか?
一体、どうすれば人が育つようになるのでしょうか?

 

■いい人が集まってくる条件とは?

以前、社員3名のIT会社の社長Bさんの相談を受けた時のことです。
Bさんの会社は、少人数でありながら大企業からの大規模な案件を引き受け、業界平均の10倍以上の利益がある高収益の会社でした。経営は非常に良好なものの、大きな問題を抱えていました。それが人材採用の問題でした。
「多額のお金をかけて、人材紹介会社に頼んだり、広告を出しても、優秀な人材が全く来ない。来るのはスキルが低い、どうしようもない奴ばかり!うちの会社は、滅多にできないような大きな仕事ができるし、それに報酬も他社よりも遥かに高い。これからもっと伸びる会社なのに、なんで、優秀な人材が集まってこないのか?」Bさんはそう嘆いていました。

人材採用に悩む経営者が陥りがちな考え方があります。それは、広告を出せば、人は集まってくるという思い込みです。そもそもお金をかけたから、いい人材が集まってくるとは限りません。むしろお金で何とかしようと思っていたら、いい人が来る日はどんどん遠のいていくでしょう。Bさんがそれに当てはまっていたことは言うまでもありません。

しかしBさんの場合、根本的な原因はそれだけではありませんでした。それはBさんにとって求めている「優秀な人材」とは、どんな人たちなのか?そのイメージが不明確で、会社の状況に不適任だったということです。
もし、優秀な人材を、能力とスキルが高い即戦力になる人とイメージしていたら、Bさんの会社には、優秀な人材は来ないでしょう。なぜなら、そもそも能力とスキルが高く仕事ができる人のほとんどは、さらなるスキルアップとキャリアアップを目指すので、大手や有名な会社に行くからです。社員3名の会社に来る確率は極めて低いのは当然です。
そもそも、仕事ができる人は、(一見、大きいチャンスがありそうに見える)大きな会社に流れやすく、小さい組織に仕事ができる有能な人は滅多に来ないものです。
では、小さな組織のリーダーはどうすればいいのか?それでもなお、いい人が集まってくるにはどうしたらいいのか?そのヒントは、人々の働く理由にあります。
お金による報酬だけではなく、それ以外の働く理由を大事にすることで、いい人が集まって来てくれ、人が育っていくのです。

では、お金以外の働く理由とは、何でしょうか?


■人が働く8つの理由とは?

50万部を超えるべスセラー「いつまでもデブと思うなよ」の著者であり、通称オタキング(オタクの王)の岡田斗司夫(おかだとしお)さんが働く理由について、このように話していました。
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いい人材を集めるにはどうしたらいいのか?
一般的には、報酬を高くして、採用条件を厳しくすることですが、今の時代はそんな必要はありません。
そもそも、人は8つのために働いています。私はその8つの働く理由を「パラメーター」と呼び、人は「お金、生きがい、人間関係、成長、評価、アイデンティティ、面白さ、希望」この8つのパラメーターを満たすために働いています。人はありとあらゆる経済的な行為をして、8つのパラメーターのいずれかを交換しているのです。

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岡田斗司夫さんの8つのパラメーターが働く理由の全てではありませんが、とても参考になる視点だと思います。

たとえば、先ほどの社員3名のIT会社の社長Bさんは、「お金」のみで採用を考えていました。それだけではなく、いい人に来てほしいならば、「お金、生きがい、人間関係、成長、評価、アイデンティティ、面白さ、希望」の8つのパラメーターを総合的に見て、職場づくりをする必要があるということです。

・生活に必要な安定した報酬を約束する
・生きがいが感じられるように仕事を工夫する
・家族のような絆で結ばれる関係を構築する
・自己成長できる機会を創造する
・自分たちの評価を感じられる場づくり
・自分らしく働ける職場づくり
・工夫して楽しむ風土づくり
・未来に希望を感じられる空気づくり

最初からこれらの8つのパラメーターをまんべんなく満たすのは困難です。オススメなのは、今の自分たちの職場を8つのパラメーターで振り返ってみて、次の順番で改善していくことです。

1番目は、伸びているところを伸ばす。
2番目は、伸ばしたいところを伸ばす。
3番目は、伸ばさなければいけないところを伸ばす。

という3つのステップです。
特にお金の報酬以外の「生きがい、人間関係、成長、評価、アイデンティティ、面白さ、希望」のうち3つに取り組むといいでしょう。なぜなら、お金だけでみたしていると、さらに報酬の高い職場に移っていく可能性が高いこと。そして、お金のためだけに働いていると、人との深いつながりを失っていくからです。当然、お金を超えたところでつながっている職場ほど、人は育っていきます。
では、お金を超えた関係を築くにはどうしたらいいのでしょうか?

 

■「生きがい」と「人間関係」に特化している川越胃腸病院

今までたくさんの組織を観てきましたが、非常に素晴らしい職場だったのが「川越胃腸病院」です。3年ほど前に川越胃腸病院を訪問して『いのち輝くホスピタリティ(文屋)』の著者でもある望月院長と、現場のスタッフとも直接いろいろとお話を聞かせていただきました。

たくさん勉強になりましたが、特に2名の女性スタッフの言動に衝撃を受けました。
一人は看護師長さんがこう話してくれました。
「来年で定年退職なのですが、ボランティアでも働きに来ます」
もう一人は20代の若い看護師はこう話してくれました。
「今年結婚で、来年退職予定なのですが、ココを辞めることを考えると…(涙)」

タダでも働きたい。辞めることを考えると泣けてくる。そんな職場は滅多にないでしょう。もちろんその二人だけではなく、全スタッフが「川越胃腸病院」で働くことに生きがいを感じ、素晴らしい人間関係に囲まれ、自己成長できる。さらに評価も頂き、自分らしく働け、仕事に面白さを見出し、将来の明るい希望を抱いている、もちろん安定した報酬も頂いている。まさに「お金、生きがい、人間関係、成長、評価、アイデンティティ、面白さ、希望」の8つのパラメーターの全てを高水準で満たしています。

ちなみに先ほどの、寿退社する20代の若い看護師に、どうしてそんな職場を愛するようになったのか聞いてみました。すると「最初は違ったんですが、周りの先輩たちが職場を心から愛して輝いていたので、自然と私もそうなっていきました」と満面の笑みで話してくれました。

なぜ、そんなにもいい人たちが集まってくるのか?それには「川越胃腸病院」の採用基準の考え方に秘密があるように感じました。望月院長が書かれた本『いのち輝くホスピタリティ』(文屋)から一部引用紹介させていただきます。

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私たちは採用面接を、理想の病院づくりに欠かせない中核的な仕事の一つとして、非常に重視するようになりました。
(中略)
最初の面接では、病院の理念をはじめ、医療に対する考え方や病院づくりの基本的な考え方を徹底的に伝えます。どんなに忙しいときでも、十分な時間をかけて、ときには相手の方が「もうけっこうです」と言いたくなるほど想いを伝え続けます。
(中略)
二回目の面接でも、私は病院の考え方を、さらに深く語ります。それから、必ずこうつけ加えます。「面接というのは、私たちがあなたを一方的に判断しているのではありません。あなたも病院を厳しい目で評価してみてください。職場は人生の大切な時間を過ごすところであり、成長を託すところでもあります。ですから自分の人生をゆだねるだけの価値がある病院かどうかを、あなたの目でしっかりと見きわめてください」と。
こうしたやりとりを重ねながら、その人がどういう夢を追っているのか、どんなことを生きる目標にしているのかを探っていきます。病院の目標とその人の目標に重なる部分が多いほど、病院にとって望ましい人材ということになります。
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「お互いが納得するまで」というところが重要で、その揺るぎない基準がいい人たちを引き寄せるのでしょう。
しかし今でこそ素晴らしいスタッフばかりですが、望月院長も昔、人手不足の職場を早く何とかしようと、選んではいけない人までも採用してしまい、結果としてスタッフが定着しないという悪循環に陥ってしまった経験があるそうです。

その反省から採用にあたっての3つの基準を設けました。
1.「病院の理念に対する共感度」
2.「個人目標よりも組織目標」
3.「社会適応能力・人間力」
知能的な優秀やスキルの高さよりも、思いやりの深さや感性の高さに重きを置きました。

望月院長が徹底したことは、どんなに忙しくても、トップ自らが時間をかけて自分たちの思いや目指している姿を語ることでした。当然、採用する人にだけに語るのではなく、普段から一緒に働いてくれているスタッフに語り続けました。
そして熱く語り続けたことの中に、「いい人に出会うために、いい仕事をする」ということがありました。「いい人生はいい人と出会うことでつくられる。いい仕事をし続けていれば、いい人との出会いがめぐってくる」ということです。実は、これこそが、いい人が集まってくる条件であり、人が育つ職場をつくる最大の秘訣なのです。

 

■人を育てるのではなく、人が育つ環境をつくる

人を育てることを放棄し、即戦力になる人を採用すればいいと考えているトップのもとでは、人が育つことはないでしょう。かといって、必死に人を育てようとしても、人はなかなか育たないものです。
そもそもトップができることは、「人を育てる」ということではなく、「人が育つ環境をつくる」ことしかできません。

世界ではじめて無農薬でりんごをつくることに成功した「奇跡のりんご」の農家・木村秋則さんは「私がりんごを育てたんじゃないんです。りんごが育つお手伝いをしただけです」と語ったことに、天地自然の法則の真実があります。
人が花を咲かせることはできません。花が美しく咲きやすい環境をつくることしかできません。それは人も一緒。その人の人生に花を咲かせることはできません。その人が、自分の人生に花を咲かせやすい「育つ環境」をつくるお手伝いすることしかできないのです。

では、「人が育つ環境」とは、どんな環境なのでしょうか?
それは「空気、土壌、水」の3つがそろった環境です。空気とは職場の雰囲気。土壌とは仕事内容。水とは情報と知恵です。

 

■まずは、人が育つための空気をつくろう

「空気、土壌、水」の中で一番重要で、最初に必要なのが、人が育つための「空気」です。自分の成長も仕事の成果も、本人の能力よりも職場の空気で決まります。どんなに有能な人も、「自分さえよければいい」という空気の職場にいたら、力を発揮しなくなっていくでしょう。逆にスキルが多少至らなくても、よい空気の職場にいたら、自ら進んで努力して成長していくでしょう。

では、育つためのよい空気とは何でしょうか?それは…

悪いことはすぐに改善しようという空気。
良いことはさらに伸ばそうという空気。
関わる全ての人たちがより幸せになるために、現状の問題を発見しようとする空気
問題が解決されることを待つのではなく、自ら進んで問題を解決しようとする空気。

では、どうすれば、そのようないい空気がつくれるのでしょうか?
実は、人材採用が職場の空気をつくっていくチャンスなのです。

冒頭の「募集しても、いい人材が来ません」「人がなかなか育ちません」と悩んでいた整形外科の院長A先生にこんなことをお話しさせていただきました。

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今、一生懸命働いてくれるスタッフは、どんな人と一緒に働きたいのか、聞いてみたことありますか?
もしないのであれば、いろいろ聞いてみたらいいと思います。

「どんな人と一緒に働きたい?」
「どんな性格の人が来てほしい?」
「今の職場にはどんな人が必要だと思う?」
「どんな経験をしてきた人がいい?」
「どんな人がいたら、職場がさらに明るくなって楽しく働けそう?」
「たとえば、その人はどんな将来の目標や夢を持っていそう?」
「今度新しく入ってきた人と、どんなことをしてみたい?」

とか、みんながどんな人を望んでいるのか、話してみることがとても重要です。
もしかして、最初はなかなか出てこないこともありますが、いろいろと聞いていくうちに次第に出てくるでしょう。もちろん、一回聞いただけではなく、数週間しばらく続けてみてください。すると、働いている時にアンテナが立っていて、ひらめくようになりますから。

さらにポイントは、一方的に来てほしい人を求めるだけではなく、それにふさわしいお迎えをすること。お迎えとは何か?それは、職場を整えておくことです。たとえば、こう聞いてみるんです。
「そういう人が来て、喜んで働いてもらうようにするには、今、何をしたらいいかな?そのために、あなたは何ができそう?」
こうして、人材採用を各人が我事として取り組んで職場を整え、お迎えの準備をしていくことです。そうすれば、自然と流れは変わり、自主的な空気、受け入れる空気、改善する空気がつくられていくでしょう。

天地自然の法則の中に、その職場に漂う空気に近い空気を発する人が引き寄せされてくるというものがあります。職場がいい空気なら、いい人が育ちます。いい人が育つから、職場はさらにいい空気になっていき、そこにいい人が集まってくるんですね。

ここでさらに大切なポイントがあります。それは、仮に職場の誰かが辞めてしまったとしても、空気は残るということです。人が入れ代わっても、空気は残りますから、人が抜けることは後退することではありません。だから常に、職場に人が育ついい空気をつくることです。空気は一朝一夕にできるものではなく、時間をかけて積み重ねていくものです。
諦めず、腐らず、手を抜かず、まずは今いるスタッフと深く話し合い、職場環境を整えていくことです。そのプロセスこそが、人が育つ空気づくりとなっていきます。
だからこそ、人材採用は、空気づくりのチャンスなんです!
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A先生は、さっそくスタッフと話し合いました。
すると、今の職場の問題がごろごろ出てきたり、スタッフの中には不平不満がたまっていたそうです。そこから逃げることなく、ひとりひとりと徹底的に話す機会をできるだけ増やし「私はみんなが働きがいのある職場にしたいと思っている。みんなが幸せになる職場にしたいと願っている。そのためには、今の職場をどうしたらいい?私にできることはないかな?私にやってほしいことないかな?」と素直に相談し、徹底的に話し合い、ひとつひとつ職場を改善していったそうです。
すると、10日もしないうちに、とってもお心の良い人の採用が決まったとのことでした。

人が育つ「空気」に職場が包まれれば、職場の雰囲気はさらによくなり、関わる全ての人たちに喜んでもらえる仕事ができる土台「土壌」ができるのです。すると、誰かが職場を改善するのに必要な情報を集め、知恵が「水」のごとく湧き始めます。そうすれば人が育つのは時間の問題です。
実は「人が育つ職場」には「空気、水、土壌」に加えて、さらにもう1つ必要なものがあります。それは、「光」です。

では「光」とは何でしょうか?光あふれる職場にするにはどうしたらいいのでしょうか?

 

■魅力あるリーダーの後ろ姿から光は放たれる

どんな大きな会社であろうとも、組織は99%トップで決まります。
逆にいえば、トップが変われば、組織は変わります。いい職場は、いいトップでつくられます。職場が変わらないのは、トップが成長していないからです。それだけ、トップの影響力と責任は大きいのです。
そもそもトップとは一番、損する役割です。何があっても、人が辞めても、損しても「それでもなお、やり続ける」こと。それがトップの宿命です。だからこそ何があろうとも「それでもなお」進むことがトップに必須の姿勢です。

ここで、トップの姿勢をみごとにまとまっている「リーダーのための逆説の十カ条」をご紹介します。これは1949年生まれのケント・M・キースさんが19歳の大学生時代に書いたものです。それが不思議と人々の間に広まり、それが海を越えてマザー・テレサのグループのもとに届き、マザー・テレサはその十カ条を自らの生涯の指針とし、十カ条を世界中に広めたのでした。それがコチラです。
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<リーダーのための逆説の十カ条>

 1.人は不合理、わからず屋で、わがままだ。
それでもなお、人を愛しなさい。

 2.何か良いことをすれば、自分のためにやったんだと、人はあなたを批判する。
それでもなお、良いことをしなさい。

 3.もしあなたが成功すれば、偽者の友人そして本物の敵が現れる。
それでもなお、成功しなさい。

 4.今日、行った良いことは、明日には忘れられる。
それでもなお、良いことをしなさい。

 5.誠実で正直であれば、あなたは傷つくかも知れない。
それでもなお、誠実で正直でいなさい。

 6.大きな理念を抱く大きな人は、小さな心を持つ小さな人に足を引っ張られる。
それでもなお、大きな理念を抱きなさい。

 7.人は弱者に同情するが、結局、強者になびいていく。
それでもなお、少数の弱者のために、戦いなさい。

 8.何年もかかって築き上げたものは、一夜にして崩れ去るかも知れない。
それでもなお、築きあげなさい。

 9.助けを必要としている人を、本当に助けたら、あなたは攻撃されるかも知れない。
それでもなお、人を助けなさい。

10.世界のために最善を尽くしても、自分は酷い仕打ちを受けるかも知れない。
それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい。

ケント・M・キース著 「それでもなお、人を愛しなさい」早川書房

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「それでもなお」進むリーダーの後ろ姿からは魅力の光が放たれ、その光に触れた人は魂にスイッチが入り、芽を出すのです。

 

■試練は天からのプレゼント

今年のはじめに、研修会社の社長Cさんから相談を受けました。
Cさんの会社は、ある分野でトップレベルの実績をつくり業績順調な会社でした。しかし今年に入りすぐ、右腕だった人が社員とクライアントを引き連れて出ていってしまったのでした。残ったのはたった2名の新人スタッフとわずかなクライアントのみでした。当然、経営難となり、数々の資産を手放し、大きなマイナスからの再出発でした。Cさんは大変落ち込んでいましたが、できる限りのことをアドバイスさせていただきました。
そして、先日、久々にお会いして状況を聞いたところ、最悪の事態は逃れ、新しいクライアントから続々と依頼があったそうです。
実は今まで気になっていたけど、手をつけられなかったことがあったそうで、そこを中心にしたサービスが好評だとのことでした。悲劇と思えたようなトラブルが、まさにターニングポイント(人生の転機)になったのでした。

古来中国では、平穏の中に突然、ターニングポイント(人生の転機)が訪れ、その後に安定的に発展していく時を「地天泰(ちてんたい)」の時と伝えられています。
それを易では「地天泰の時は、つまらぬ小人(しょうじん)が出て行き、大人(たいじん)が寄ってくる。吉にして願いが通じる時。地天泰とは天地がひっくり返り和合している状態であり、そのとき天地のはたらきが適時助けてくれて、民を安泰に導く」といわれています。

地が上で天が下では逆のようですが、下へ下がろうとする地のチカラと、上に上がろうとする天のチカラがしっかりと交わり合い、新たなるモノを生み出すエネルギーとなります。相対するものがぶつかり合って新しいものを生み、変化し続けることが易の理念であり、天と地という陽と陰の代表が交わり合うことが天地自然の法則の理想の状態なのです。
逆に上が天、下が地の場合は、「天地否(てんちひ)」といって、両者は交わることなくどんどん離れていき、何もかもが行き違い、何も良い結果を生まない、という状態になります。
では、職場において「地天泰」とはどんな状態なのでしょうか?
それは、トップ(天)がメンバー(地)を下から支えて慈しみ、メンバー(地)がトップ(天)を敬い動く逆三角形の状態です。

その状態にあるとき、トップは周りから「あの人は見上げたものです」「本当に私たちのためにやってくれています」と言われるでしょう。
地天泰の状態で動いているトップをメンバーは応援してくれます。そして、人が応援する人に、天の女神も応援してくれるのです。

しかし、地天泰ではなく天地否になってしまうときがあります。それはトップが以下のどちらかの状態になっているときです。
・自主性がなくて流されて、愛ある行動ができていないとき。
・頑なに我流を貫いていて、善なる思いが失われているとき。

だからこそ、トップは常に2つの問いを持つことが重要です。
「常識や惰性に流されていないか?」
「自己都合で考えてしまっていないか?」
こうして自己都合を超えて、みんなのために生きる、みんなのために働くという信念、確信が道を開いていくのです。

そもそも人は誰でも、油断するとすぐに、小さくまとまって、ひとりよがりになって、遠くが見えなくなって、自分中心になって、愛ある行動ができなくなります。
そういう時に天が与えるのは、試練、裏切り、逆境、絶対絶命のピンチです。しかし、それは天からの幸運の扉を開くカギなのです。

小さくまとまらずに、大きく考え動きなさい。
ひとりよがりにならずに、周りをよく見なさい。
近くばかり見ずに、遠くを見て先読みしなさい。
自分中心にならずに、相手の心を察しなさい。
愛と誠ある行動をして、みんなのために生きなさい。

という天からの成長のメッセージです。

闇と光は同時にやってきます。受け入れずして、進める道はありません。「それでもなお」と立ち向かった時、行く手を阻む大きなカベは、トップが進むべき真の道につながる扉と変わります。勇気をもってその扉を開き、目の前に広がる道を進むトップの背中からは、まばゆい光が放たれているでしょう。その光によって人が育つ職場はつくられ、瞳と魂がキラキラと輝く人たちが集まってくるのです。


現役歯科医師による歯科医院の為の経営マーケティングクラブ「Doing(ドゥーイング)」
小田真嘉の「魅力経営コラム」2010年8月号より