成長コラム One Point Column

Doing連載魅力経営のヒント

第22回目:地域とお客さんとスタッフから愛される3つの秘訣(2011年5月号)
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■「与え組」と「奪い組」

前回の第21回「3.11以降の新しい世界の幕開け」では、「みんなのために自分の損得を超えて動く人」と「自分の損得のことばかり考える人」という「与え組」と「奪い組」という2つのグループに分かれてきていること。そして、これからの時代は「安心」と「信用」の2つが重要になってくるとお伝えさせていただきました。

現場でどうやって、まず自分たちが安心し、周りに安心感をひろげていくか、またお客さんとスタッフに信用されていくか?

今回は、安心の土台を築き、信用の梯子(はしご)をかけて登ることで、地域とお客さんとスタッフに愛される働き方をお伝えしていきます。あえて非常にユニークで独自化された方々と事例をご紹介しますが、それはこんな時だからこそ、今の業界のカベ、思い込み、とらわれ、常識、風習、思考の枠組みを壊すヒントにして頂きたいからです。

 「ここから学べることは何か?」
「自分たちに置き換えたら、何ができるのか?」
「すぐ止めるべきことは何か? すぐ取り入れて実践できることは何か?」
と自分に問いかけながら、ぜひお読みください。

地域とお客さんとスタッフから愛されるには、たくさんの要素・要因があると思いますが、その秘訣を3つに絞ってお伝えします。それが以下です。

1.理想のお客さんを明確にする
2.お客さんに近づいていく
3.喜ばれることを徹底的に考えて実行する

それでは、この3つを実践している会社をご紹介します。

 

■心の安住場所を飛び出そう

競争が激しい旅行業界の中で、リピートと口コミだけでツアー販売開始数日で完売してしまう「地球探検隊」という旅行会社があります。その代表が「感動が共感に変わる!」(こう書房)の著者でもある中村隊長で、6~7年のお付き合いになります。(探検隊なので「社長」ではなく「隊長」、ツアー参加者も「お客さん」ではなく「隊員」と呼ばれています)

 中村隊長が提供している「大人の修学旅行」という体験型ツアーは、安いわけでも、大手旅行代理店のように至れり尽くせりのサービスがあるというわけでもありません。参加費も高い方だったり、中には海外での現地集合・現地解散というツアーもあったりします。また同行スタッフの案内や通訳もほとんどありません。むしろ不便や不安を感じるものも多々あります。
しかし、地球探検隊のオフィスに行けば、感動の体験談や感謝の手紙が机の上やカベの至る所にあり、それとは別に棚いっぱいのファイルに綴じられています。小さな会社にも関わらず、お客さんから頂いた喜びの声の数は、日本でもトップレベルでしょう。
そして、会社のスタッフたちも、全員が元お客さんです。スタッフたちに参加したツアーのことを聞くと、何時間でも自分たちの体験した感動の数々を熱く語ってくれます。ツアーを予約にきた隊員が他のツアーの体験談を読んだり、スタッフの話しを聞いたりして、その次のツアーまで予約して帰ったという話しは珍しくありません。

 そんな地球探検隊ですが、先日の3.11東日本大震災の影響で、ゴールデンウィークに開催予定のニュージーランドツアーの日本発の直行便が欠航になったそうです。中村隊長が28年間、旅行業に携わってきた中でGWでの欠航は初めてのこと。欠航の原因は他の旅行代理店のキャンセルが相次いだこと。しかし地球探検隊の参加者は一名もキャンセルはありませんでした。そこで急遽、直行便ではなく、アジア経由でニュージーランドに入る別ルートを用意して対応したそうです。
震災と自粛の影響で、旅行業界が軒並み大ダメージを受け、中には廃業寸前の大手代理店がある中、地球探検隊は全くと言っていいほど影響を受けず、むしろ中村隊長とスタッフ、そして多くの隊員たちとの結束が強まっているのでした。

 なぜ、そんなにも社員スタッフとお客さんから愛されているのでしょうか?
先日、中村隊長と話していたとき、こんなことを教えてくださいました。

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うちは、観光目的じゃなくて、体験にチカラを入れているからね。単なる観光だったら、一度見たら二回目はよっぽどのことがないと行かないでしょ?
うちのツアーは、トレッキングとかシーカヤックとかモンゴルの大草原を馬で駆け抜けたりとか、外国人たちと一緒に行く多国籍ツアーとか、通常体験できないことばかりだから、一度参加すると、また一回上達したらまたやりたくなるし、一回自分の殻を破って新しい自分に出会うと、また参加したくなる。うちの会社のファンになるというより、共通の体験を乗り越えた仲間になる感じ。
今は頭ばっかり使う時代だから、みんな「心の解放」をしたいと感じているんだ。それ(心を開放して、新しい自分に出会うこと)は、もともと根本的に誰もが持っている欲求だと思うけどね。地球探検隊は今の大きな時流に合わせて、小さく変えられる所を変えながらツアーを組んでいるから、こんなときでもほとんど影響がなかったり、キャンセルも出なかったんだと思う。

さっき小田君から「なぜ、お客さんから愛される会社になったのか?その原点を聞かせてくれ」って言われたけど。

振り返ってみると、オレが前の旅行会社を辞めた25歳のとき、自信もやりがいも、これといった目標も無い状態だった。毎晩、浴びるように酒を飲む自堕落で自暴自棄な日々。夢も目標も、人生の目的もなかった。「オレなんて、何の価値もない…。生きていてもムダだ」って自己嫌悪の塊だった。

だけど、そんなオレを救ってくれたのが、元・お客さん。仕事を辞めて、海外放浪中にオーストリアのウィーンで、数ヶ月前にオレが手配した多国籍ツアーに参加したお客さんの女性に偶然出会ったんだ。そこで彼女から言われた一言がオレの人生を変えたんだ。

「ありがとうございました!あのツアーで私、すっごく元気になれたんです。本当にあなたのおかげです!少なくとも私は旅をする前より今の自分が好きになれたんです。二十数年生きてきて、こんなにも泣いたり笑ったり感情が揺れ動いた経験はなかった。だから、私みたいに旅をきっかけに、ひとり一人の日本人を元気にして、日本を元気にして下さい!」

と彼女からそう言われて「こ、こんなオレでも人の役に立っている!」と全身に衝撃が走った。それまで単にツアーを手配しているだけの単純な仕事で、世の中を斜に構えながら見ながら、ふてくされて過ごしてきた日々。ちっぽけな自分でも誰かの役に立てるということが見えていなかったんだよね。でも、彼女の一言で、人の役に立っているという実感がわきあがって、自分のやっていることが社会とつながっているって感じたんだ。

 それから「一人でも多くの人の役に立ちたい、喜んでもらいたい」という気持ちで地球探検隊を始めた。あのときから25年。その気持ちは今も変わらないし、それがオレの原点になっている。

なんで、この会社をつくったのか?
何のために、この仕事をやっているのか?

それは『旅で日本を元気にするため!』

人に役に立っているということを実感した瞬間が、オレにとっての人生の転機になった。あの日を境に、旅で人々を元気にしようって考えるほど、アイディアも湧いてくるし、元気な声がたくさん集まってきたし、数えきれないほどのたくさんの『ありがとう』という言葉を頂いた。もちろん大変なことばっかりだったけど、モチベーションが下がることはなかったね。

英語ができない人が、外国人の中に飛び込むのはすごい勇気がいると思う。だけど「可愛い子には旅をさせよ」っていうけど、その場その場で判断を迫られる体験をした隊員は、ツアー参加前と参加後では別人になっていることもよくある。地球探検隊のツアーは、まさにその人にとって一生を変えてしまうほど衝撃的なツアーになるものばかり。

人生って上がったり、下がったりの波でつくられると思う。人生にはアップもダウンもあって、それこそ人生は旅そのものだと思う。何もない平坦で平均点の人生なんてつまらないよ。でこぼこした人生は、喜びも成長も大きい。

ニュージーランドの友人が言っていた。冒険とはアドベンチャーではなく、『Out of comfort zone(心の安住場所を飛び出すこと)』だって。

今ではオレの座右の銘になっているコトバだけど、本当にその通りだと思う。今の世の中、心が温まる居場所は必要。だけど、ずっとそこにいてぬるま湯につかっていると感度が悪くなって、感動しない人生になってしまう。楽(らく)ばっかしていると、本当の意味で人生を楽しめない。一旦外に飛び出してみれば、新たな自分に出会えるし、温かい場所の大切さも分かる。感謝もできる。喜びもいっぱいある。だからときどき外に行く場所があってもいい。そこには成長や感動のタネがいっぱいある。人生は笑うためにある。感動するためにある。

そのために、地球探検隊のツアー「大人の修学旅行」では、同行スタッフはできる限り黒子に徹する。なぜなら、ツアーに参加した隊員たちが、自分で考え、自分で判断して、自分で行動するため。
通常のツアーやグループ旅行は、トラブルが起きることを避けて、スケジュール通りに進行させるために、参加者にできるだけ考えさせずに、先にレールを全部ひいておく。それは全部、旅行会社の都合。そんな人に連れて行かれる旅は記憶には残らない。

黒子のスタッフは、細かく指示はしないし、答えを先に言わない。言うと考えなくなるから。隊員たちは自分で考え、試行錯誤しながら進んでいく。当然、時間もかかるし、トラブルも起きる。でも、スタッフは、隊員のチカラを信じて、じっと待つ。
これは親子関係と一緒。全部先にやってしまうのは、子供の自立を阻む親のエゴ。親が自分の子供を信じるように、隊員のこともまた同じように信じる。すると、隊員が自分の力で乗り越えたり、達成したりすると、お互いに大きな喜びとなる。
だから、黒子であるスタッフの役割は、できるだけ自分の出番を減らして、隊員の出番をつくってあげること。そうすると手を上げ、言った人が主役になる。もちろんツアーのリーダーとしてスタッフはいるけど、リーダーシップはみんなで発揮したらいい。すると、それぞれがみんなの役に立つ出番ができて、みんなに喜ばれる。単なる自己満足のためにツアーに参加するのではなく、一緒に参加した仲間の満足、仲間の喜びのために考えて動くようになる。それが旅の醍醐味だし、記憶に残るいい旅になるとオレは思う。

今では本当に隊員に恵まれているけど、最初からそうだったわけじゃない。
2004年に、信頼している旅仲間の二人から強烈なクレームを言われたのが大きなきっかけになった。あまりにもショックで、気分が落ちこんで…。それで「こんなの来ちゃった!どうしよう」って、思い切って当時書いていた日記サイトにぶっちゃけたの。
そうしたら、日本全国からだけじゃなくて、アメリカ、カナダ、ドイツ、オーストラリア、イギリスとか全世界からメッセージが来た。「え、こんなにみんな読んでくれているんだ」って気持ちが一気にプラスに転じたの。

それがきっかけで、「地球探検隊」が理想とする「大人の修学旅行」とは、どんな旅なのか?って自問した。そうして出来たのがこの25カ条
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<「大人の修学旅行」の25カ条>

この旅でいう「大人」とは自分で考え、判断して行動できる人と定義します。
・連れて行かれる旅ではなくて、主体的・自主的な自己責任の伴う旅。
・環境のせいや誰かのせいにしない旅。
・スタッフは添乗員でもガイドでも通訳でもなく、仲間として参加する旅。
・もっとも大切にしているのは感情共有。隊員たちと共に感動する旅。
・次に何が起こるかわからない旅。
・参加者を尊重し、信頼し、協調性のある旅。
・個人の能力を引き出す達成感のある旅。
・思いっきり笑えて泣ける、カッコつけない、素の自分を出せる旅。
・ありのままを受け入れ肯定する旅。
・共通の意識、危機感を持った旅。
・参加者が創り上げていく旅。
・人の話をよく聴き、よく語る旅。
・本当に大切なことを探す旅。
・気づきのある成長できる旅。
・感性を磨き、小さなことに感動できる旅。
・生涯の友に出会える旅。
・童心にかえる旅。
・人生を変えるきっかけとなる旅。
・夢を実現できる旅。
・人生の師を見つける旅。
・本当の自分を見つける旅。
・日本人として誇りに思える旅。
・友達に自慢したくなる旅。
・旅が終わってから、始まる旅。
・あなたの日常を変える旅・・・。
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特に、「スタッフは添乗員でもガイドでも通訳でもなく、仲間として参加する旅」というのは、日本で絶対にうちだけだと思う(笑)。
この25カ条を明文化してから、今まで以上に素晴らしい隊員たちがどんどん集まってきた。今では、うちの隊員にふさわしくないと思えるお客さんは、数年に1名ぐらい(笑)。

「どんな人に(Who)」を明確にしたら、その人が元気になるために「何をする(What)」がさらに明確になった。
「何をしたらいいのか?」って考えたら、「できるだけ何もしない!」って答えが出た(笑)。あとは同行スタッフには「率先して楽しんで」といつも伝えている。なぜなら、その気持ちが伝染するから。
こうして隊員のことを信じて待つことができるようになった。もちろん今でも判断が難しいときはたくさんあるけど、本当に最低限だけで、自分たち都合の勝手なレールを引かなければ、指示もしない。だからみんな自分たちで考える。はじめてのことだから、当然失敗もする。でも、トラブルがあった方が旅も人生も面白い!強弱のある旅、そのスタイルに、合わないお客さんは別にいい。他の旅行会社で旅行を楽しんだらいい。

 中には15年もリピートし続けてくれているベテランの隊員もいる。うちに合わない人のご機嫌取りをしていたら、長年喜んでもらっている人を逆に裏切ることになる。
今は、25カ条のおかげで、滅多にいないけど、隊員としてふさわしくない言動をしていたら、面白いことに、先輩の隊員が堂々と注意して教育してくれる。「それは違うよ!」「それはあなたが、自分でやりなさい」「で、どうしたいの?」ってね。

 うちの旅は、自立している人、自立したい人のためにある。
「どこ(Where)」に行くかよりも、「何を(What)」するかよりも、「誰と(Who)」行くのかを一番大事にしている。こっちが一緒に旅をしたい人を言い続けていると、違う人は来なくなる。

先日、ある旅行代理店の人から「中村隊長と同じことを、今うちでしたら、誰もこなくなっちゃいますよ」って言われたけど、オレの場合は10年以上も、メルマガ、ブログ、そして最近はツイッターで発信続けているからね。だから少しずつ自分なりに発信していったらいいんじゃないかな?
お客さんを選んでいなかったら、選んでもらえないでしょ。苦しいから誰でも来てほしいってやっていたら、そのうち誰もこなくなっちゃうよね。万人受けしようとするのは失敗の素だよ。みんなから好かれようとして、みんなから嫌われるみたいな(笑)。

お陰で、うちは本当に隊員たちに恵まれているって思うよ。
そんな隊員たちと話していて、ある構想が浮かんできた。それはカフェバーをつくること。もっと気軽に出せて仲間と話せる場があったらいいって思ったわけ。それで、スタッフとどんなカフェバーがいいのか話した。
オレたちはどこに向かっているのか? 行く方向を決めようぜ!って。そうしたら、色々話したら、あるコトバに集約された。
それが『きっと元気になる○○○○』だった。きっと元気になる旅、きっと元気になるカフェバー、きっと元気になるお酒。何かに困ったら全部、そこに戻って考えられる。「それは、きっと元気になるモノ?」って。

静かで癒されるようなまったりした感じではなく、にぎやかで、世界中のお酒が置いてあって、まるでスペインのバル(軽食、喫茶、バーを合わせたような憩いのBAR)のような感じかな。旅の話を酒の肴に飲んだり、世界中の酒を肴に飲む感じ。
スタッフと隊員たちと話していて、どうせやるなら、自分たちらしく、今までに無いことをしよう!って盛り上がったよ。最初から完全にできあがったカフェバーではなく、隊員たちと一緒につくっていくバーにしたい。ありがたいことに、すでに隊員たちからは「私たちに何かできることはありませんか?」「タダでもやりますよ!」「一緒につくっていきたいです」との声をたくさんもらっている。
オレたちは、他の会社ではできないことをしたい。「自分たちらしく!」「地球探検隊らしいものは?」を合言葉に、ミーティングを重ねて行くと、「楽しそう!」「いいね」と、どんどん全員一致でいろいろなことが決まって行く。たとえば会社の新しいロゴだって、どんどん明確になっていく。

今ではサポスタ(サポートスタッフ:ボランティアで参加する隊員たちのこと)は100名を超えている。定期的にみんなとミーティングしているけど、そのときは、オレやスタッフが「自分たちはこうしたい」「コレをやっていく」ということを先に言わずに、まず最初に隊員みんなに聞いてみる。「どういうのがいい?」「どうつくりこんでいったら喜ばれるかな?」「どうしたら伝わるものができる?」と聞くと、どんどん意見やアイディアを言ってくれる。

やっぱりオレは思う。自己満足と自力には限界があるって。
でも、人に喜んでもらうことには限界が無いし、自分もすごく気持ちいいし、そしてなにより、力がどんどん湧いてくる。
オレはとにかく目の前の人に喜んでもらおうと、いつもMAXを尽くす。すると「隊長に会えて良かったです」と言われることも多い。でも単に満足して帰ってもらうのではなく、心からの笑顔、心から湧き出るような喜び、心からの感動。そこまでなってくれたら最高だと思って、いつも、誰にでも一切手を抜かないようにしている。隊員はオレにとって友人でもあり、仲間でもあり、家族でもあるって思っているんだ。
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 中村隊長と地球探検隊がお客さん、スタッフ、ツアー先の現地の多くの人たちから愛されている秘訣がたくさんつまったお話しだと思います。

 そんな地球探検隊が開催しているツアーは、ちなみにこんな感じです。
「内モンゴル騎馬遠征隊 ~ホンゴルアイル~」
「夏のカナディアンロッキー 自転車で旅する300km」
「カナダ・ユーコン川:カナディアンカヌーで下る秋のユーコン原野160キロの旅」
「アラスカ:オーロラを待ちがならキースロッジで過ごす5日間」
「春のユーコン:犬ぞり遠征隊 ~犬ぞりを操り原野キャンプ、夜空に煌めくオーロラを求めて~」
「モロッコ:混沌の街から灼熱のサハラへ ~迷宮のメディナ、スーク、アトラス山脈、砂漠キャンプ~」
「グランドキャニオンを谷底から見上げる ~アメリカ西部国立公園 仲間とバンで大移動~」
「沖縄・阿嘉島 : 阿嘉人(あかんちゅ)と野生に目覚める旅 ~珊瑚の海で2泊3日シーカヤック&キャンプ~」
「屋久島:生命の営みを感じて遊ぶ4日間 ~滝、川、海、そして森… 水を巡る旅~」

■お客さんとスタッフから愛される3つの秘訣

 中村隊長の話しのポイントを3つにまとめると

1.理想のお客さんを明確にする
2.お客さんに近づいていく
3.喜ばれることを徹底的に考えて実行する

最初は「1.理想のお客さんを明確にする」です。
中村隊長のお話にもあったように「お客様を選ばなかったら、お客様からも選んでもらえない」のです。

 1)どんな人に来てほしくないのか?
2)どんな人に来てほしいのか?
3)今、来てくださる方の中で理想に近い方はどなたか?

この3つを考えてみましょう。中村隊長の場合は、それを25カ条として明文化しました。
次は、「○○○な方にオススメです」「こんな方がいらっしゃいました」「△△さんの体験談がコチラです」などとホームページ、ブログ、ツイッター、Facebook、かべ新聞、ニューズレター、お便り、直接口頭で伝えるなど、できるところから情報を発信してみましょう。

次が「2.お客さんに近づいていく」です。ここが今回の一番のキーになります。

 

■近づくほど、愛されていく

従来の成功パターンは、「信者化」という、自分たちが特別な存在になって、お客さんといかに距離を置いて離れるかというモデルでした。昔流行った「カリスマ」というパターンです。
しかし、これからは、お客さんに近づいて、距離を縮めるかというのが大切になってくると思うのです。いかに身近で、寄り添うことができるか、それが魅力と信頼あるリーダーでしょう。

3~4年前のことです。ご紹介である美容室に髪を切ってもらいにいきました。そこの美容師Aさんは、カットの技術を競う世界大会の常連で何度も賞を頂き、多くの美容師の指導・育成をされている方でした。
Aさんのカットは、骨格や髪のクセを計算して考えながら、髪をひとつまみずつつかんで丁寧に少しずつ切るカット法で、「気になる」が「気にいる」と評判で全国からその方にカットしてもらいに来ているとのこと。
Aさんに希望の髪型を伝えると、手で髪を丁寧につまんで感触を確かめながら、後ろ、サイド、トップ、前髪…と全体的に様々な角度から、何度も何度もじっくり見ています。それから、ユリの花を逆さまにしたような形の真っ白の長いエプロンをすっぽりと首からかぶり、いよいよカットに。
本当に少しずつ髪をつまんではカットし、数ミリずつ平行に移動しながらカットし、そして数ミリ上に一段上にあがって、再度少しずつつまみながら…を繰り返します。まるで髪の毛を一本一本カットしている感じで、カラーも含めて全部終わってみれば4時間かかりました。
2回目もカラーなしで3時間半。3回目はカラーもして、やっぱり4時間…。美容室に行って、ずっと座りっぱなしで会話も雑誌も見ることなく、おしりが痛くなり、全身ぐったりして帰ることが3回も続き、ご紹介者には申し訳なかったのですが、美容室を変えることにしました。もっとお客さんに楽しんでもらう工夫や姿勢があれば通い続けたと思うのですが…。

 確かに、高い技術はあるに越したことはありません。しかし高い技術が無ければ愛されないというわけでもありません。むしろ、こだわり過ぎて、相手への思いやりを失ってしまうことさえ少なくありません。
地域やお客さんに愛されるには、商品、サービス、技術、自分たちのこだわりにスポットライトを当てるのではなく、お客さん(の日々の生活や人生の質の向上)にスポットライトをあてて、お客さんに近づいていくことが大切になってくるでしょう。

 

■お客さんのファンになる

 「第17回 愛されて繁栄していく3つの戦略」でも、ご紹介させていただいた長野県にある地域とお客さんから愛されている薬屋さんのN子さんがいらっしゃいます。ある大手健康食品メーカーさんが、今までのマーケティング手法を駆使して集客することに限界を感じ、現在、N子さんのお店のやり方を取り入れ、全国のお店の立て直しをしようとしています。

 N子さんのお店には毎日、地域のお客さんたちが集まって来ます。商品を買いに来るわけでもなく、N子さんやそこに集まってくる人たちと楽しくお話しをするためや、お茶やお菓子やごはんを持ってきて「一緒に食べませんか?」とやってくる方もいらっしゃいます。
N子さんは、来てくださる方を見て、その方に合った健康食品をその場で商品を開けて、お茶と一緒に出します。もちろん無料。時間がない人には、袋に入れて「これ後で飲んで」と渡すこともよくあります。
90歳のおばあちゃんがN子さんのお店に毎日来て「私が元気なのは、あなたのおかげだよ」と言ってくださるそうです。
N子さんはテキパキ仕事ができるかといえば、どちらかと言えばそうとは言えないかもしれません。お店に置いてある健康食品の場所が見つからずあたふたすることもしばしば、するとお客さんが「ほら、ココにあるわよ」と探して見つけてくれます。そんなN子さんのことがお客さんたちは大好きなのです。
お客さんだけではなくN子さんのお店と取引している協力会社さん、健康食品メーカーさんの営業マンの方のお話しを聞いても、全員が「あのお店にいってN子さんと会うと安心するんです」と口を合わせたように話してくれます。ある協力会社さんに「N子さんはどんな方ですか?」とお聞きしたところ、「また明日も会いたい方ですね」と笑顔で答えてくださいました。

では、どうすればN子さんのように「また明日も会いたい」と思ってもらえる自分とお店にすることができるのでしょうか?
N子さんとお話ししていると、あることが分かります。それはN子さんご自身がお客さんと「また明日もお会いしたい」と思っていると言うことです。

 もうひとつ静岡県の伊豆半島の先端にある松崎町にある薬局「くすりのハヤマ」の端山(はやま)晋一(しんいち)さんは「薬を売らない薬屋」として地域とお客さんから愛され、さらに全国の薬屋さんの勉強会に呼ばれて講演活動もされています。

 そんな端山さんいわく、
「自分のお店もそうですけど、全国の薬屋さんを見て分かったことがあります。今までは、お客さんを自分のファンにさせる手法が効果的でした。今からは、自分がお客さんのファンになることが大切だと思います。自分が動かずに、人を動かして集めるのではなく、自分がお客さんのファンになって近づいていくことが大切になってきたということです。
私自身も今まで以上に、お客さんのファンになろうと心がけていると、あることを気づきました。それは、来てくれるだけで元気になるお客さんがいるといことです。
先日、その方が数日来なくて気になって、こちらから電話して『お店に来てください。お顔を見ると元気になるので』とお願いしちゃいました。するとすぐに喜んで来てくださいました(笑)。他にも90歳の近所のパン屋さんのおじいちゃんが本当に元気な方で、おじいちゃんの話しも面白くて、お店に来るとうちの家族が総出で話しを聞くんです。私もおじいちゃんに『私もおじいちゃんみたいな元気で、そして周りにも元気をお渡しできるような人になりたいです!』って毎回言ってしまうんですね。それは家族も一緒みたいで、おじいちゃんが帰ろうとすると『もう一杯、お茶飲んで行って』って引き留めるんです(笑)。
お客さんのファンになったら、また明日も会いたいなぁって自然に思うんですよね。」

 確かに、お客さんから「また明日も会いたい」と思ってもらうことは、どんなテクニックを使っても一朝一夕にできることではありません。心を込めた小さな言動の積み重ねです。しかし、その第一歩は、まずこちらがファンになって「あのお客さんに明日もまた会いたい」と思うことから始まるのでしょう。

 しかし、イヤなお客さんだったら、どうすればいいのか?
先ほどの端山さんは「いや、不思議なことに、イヤなお客さんいないんですよ」と話してくださいました。

 実際に、そういったネガティブなお客さんが来なくなったこともあるでしょう。しかし、それ以上に、コチラ側が勝手にネガティブに見ていただけで、「あのお客さんに明日もまた会いたい」と思っていたならば、自然と相手の良いところを見るようになるのでしょう。それが「安心の気」となって、お店に安心感が充満して、来てくださる方が「また明日も来たいお店、また明日も会いたい人」と感じるのでしょう。

 

■ただ一緒にいるだけ

 そんな端山さんのお店でのできごとです。
お客さんで、ある介護施設の代表をされている女性S子さんがいらっしました。S子さんは、仕事がバリバリできて、施設長まで昇進。「もっと人を育てたい」「引き上げたい」と熱心に教育する日々。しかし、ある日、乳がんになって落ち込みます。
話を聞くと「頑張れば、頑張るほど、嫌いな人が増えて、言っても動いてくれないスタッフたちが増えきた。気づけば自分のことが大嫌いになっていて、働くのもイヤになってきたの…」と言うのです。そこで端山さんは、こんな会話をしたそうです。

端山さん:「そもそも、最初は介護が好きだったのでは?」

S子さん:「そうなんです。でも地位があがるごとに、嫌なことが増えてきちゃって…」

端山さん:「患者さんも含めて、スタッフのみんなは、S子さんからもらえる安心感を求めているのだと思いますよ」

S子さん:「そうかもしれません。先日もある患者さんから『あなたと一緒にいると緊張する』と言われたばかりで…」

端山さん:「本当は、背中に手を置いて、ただ一緒にいてあげるだけでいいのでは? S子さんはそいうことをしたいと、私は感じますよ」

S子さん:「本当、そうなんですよ…。私もそういうことがしたいんです…」と言って涙を流していたそうです。

 ひとしきり泣いたS子さんは、吹っ切れて元気になり、自分に合う健康食品を見繕ってもらい買って帰りました。その後、もとの楽しく働くS子さんに戻り、部下たちの態度、そして患者さんたちの様子も変わったそうです。

 

 中村隊長も、N子さんも、端山さんも、そしてS子さんも「そもそも何の(誰の)ために」という原点に立ち戻って働いています。その原点に戻るたびに、自分が目の前の人に何をすべきかが見えてくるのです。それがあって次の「3.喜ばれることを徹底的に考えて実行する」にシフトできます。

 

■良いことはさらに続け、悪いことはすぐ改善する

 お客さんに近づくほど、何をしたら喜んでくれるのか思いつきますが、それがすべて成功するとは限りません。時には失敗することもあるでしょう。良いと思うことは取り入れて継続してみて、悪いと思う事はすぐに辞めるか改善していくことです。その連続の先に、自分たちらしい愛される働き方が確立されていきます。

 たとえ時間が無くて忙しい中でも、工夫すればできることはたくさんあります。たった「一冊のノート」でお客さんから愛されている病院と居酒屋があります。
ある病院は待合室にノートが置いてあり、患者さんたちの体験談や喜びの声がたくさん書いてあります。その下に看護師さんたちの温かいコメントが手書きであり、まるで交換日記のように、書いた人が次にまた見るのが楽しみになっているのです。中には相談もあり、それに関して丁寧に答えています。
ある居酒屋さんでも、ノート一冊で繁盛しています。ノートにお客さんが要望希望を書き、スタッフが面白く答えるというものです。そこにビール一杯無料券などをセロハンテープでくっつけ、書いたお客さんは再来店したときに、それを剥がして使うのです。ご主人は「生協の白石さん」をヒントにしたと話してくださいました。大学の生協職員の白石さんが学生からの利用者アンケート用紙「ひとことカード」に書かれた要望や質問に答えるというもので、例えばこんな感じです。

Q.忙しいです、ぜひ時間を売ってください(吉)

A.ファンタジーなご要望、ありがとうございます。当生協が時間を切りうちできる術を会得するはずもございませんが、それを象徴するかのようにTime誌は置いておらず、Newsweek誌は販売しております。現代を知る為に一読するお時間は、決して無為ではございません。組合員証をご提示で10%OFFです。(白石)

 他にも、オススメ本やDVDの貸し出しをしている薬屋さん、動物病院、建築会社さんがあります。
先ほどの薬の端山さんは「あなたの笑顔が一番の薬」ということを常に言い続け、笑顔になれるようなオススメな本を取りそろえ、お客さんの悩みにぴったりあった本を選び、無料で貸し出ししています。
ある動物病院では、もっと動物を好きになってほしいという想いから、先生とスタッフが選んだ、動物たちが出ている映画やドラマのDVDコーナーを院内につくり、それを見たスタッフの手書きで、オススメポイントを書き込み、それも無料で飼い主さんに貸し出ししています。
ある建築会社さんでは、世界中のかっこいい家、住みやすい家、子供が喜ぶ子供部屋、料理したくなるキッチン、仕事をしたくなる書斎などが載っている写真集をそろえ無料で貸し出ししています。
他にも、ある美容室では、置いてある雑誌をオリジナル化しています。キレイだったり、可愛い女優さんやモデルさんのページに蛍光ペンでチェックしたり付箋をつけて、どこが好きなのか、どこに美の秘訣があるのかコメントを書いたりしています。
手段は何であれ、自分たちらしく楽しみながら、お客さんに「近づく、歩み寄る、寄り添う」という姿勢が愛されるポイントでしょう。

 しかし一番のオススメは、お客さんに直接聞くことです。先ほどの美容師Aさんのように、こだわるほど原点からズレて行ってしまう場合が多いからです。
中村隊長も隊員たちに直接よく聞いています。身近な所から無理のない範囲で「愛用者の集い(囲む会)」などをひらき、思い切って「今、どんなことに困っているのか?」「私たちに何をしてほしいのか?」「何があったら嬉しいのか」直接聞いてみることです。

私たちが地域から、お客さんから愛される答えは、お客さんたちの心の中、日常の中にあります。そうやって、お客さんの心に近づいて、喜んで頂けることを続けて行くと、あるとき、あるモノが現れます。

 

■御魂(みたま)の顕現(けんげん)

地域とお客さんとスタッフから愛されているリーダーや会社は、地域とお客さんとスタッフを人一倍、愛しているところです。
今、自分たちがやっている言動が本当の「愛」かどうか、それは正直分からないかもしれません。しかし、愛ではない言動が分かると思うのです。
そこに、自己顕示や承認欲求の思いはないか?
短期的で一時的な損得ばかりを計算してはいないか?
過剰に勝ち負けや自分たちの都合ばかりを優先させていないか?

自分たちの言動が「愛」でないことに気づくこと。そのためには原点を忘れないこと。何度も立ち戻ること。毎日思い出すことです。
そして、目の前のお客さんとスタッフに直に対して…

Face to Face(目線を合わせながら、同じ方向を見る)
Hand to Hand (真心を込めて手を差し伸べ、お手伝いする)
Heart to Heart (相手の心に自らの心を寄り添う)
Spirit to Spirit(相手の奥の魂に呼応するよう、自らの魂を発動させる)

 これらを実直に繰り返しているうちに、いつか自分の心の奥にある魂が燃え上がって熱くなり、まるで表にぶわっと飛び出してくるような瞬間が訪れるでしょう。それを「御魂(みたま)が顕現(けんげん)する」と言います。
そのとき、発する一言に、差し伸べる手に、近づく一歩に愛が込められ、共に喜び、悲しみ、乗り越え、感動し、成長していくことができます。
そうやって愛を体現し、愛に帰一すること。それが地域とお客さんとスタッフから愛される最大の秘訣だと思うのです。

現役歯科医師による歯科医院の為の経営マーケティングクラブ「Doing(ドゥーイング)」
小田真嘉の「魅力経営コラム」2011年5月号より