成長コラム One Point Column

Doing連載魅力経営のヒント

第23回目:続・お客様とスタッフと地域から愛される秘訣(2011年6月号)
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■「与え組」と「奪い組」

前々回、前回の第21、22回では、「みんなのために自分の損得を超えて動く人」と「自分の損得のことばかり考える人」という「与え組」と「奪い組」という2つのグループに分かれてきていること。そして、これからの時代は「安心」と「信用」の2つが重要になってくるとお伝えさせていただきました。

今回は、「お客様に近づいて、いかに喜ばれることを徹底的に考えて実行するのか」という、信用の梯子(はしご)をかけて登っていく働き方をお伝えします。
今回もあえて異業種の事例をご紹介しますが、それはこんな時だからこそ、今の業界のカベ、思い込み、とらわれ、常識、風習、思考の枠組みを壊すヒントにして頂きたいからです。

 「ここから学べることは何か?」
「自分たちに置き換えたら、何ができるのか?」
「すぐ止めるべきことは何か? すぐ取り入れて実践できることは何か?」
と自分に問いかけながら、ぜひお読みください。

 

■日本中から相談される町の小さなガス会社

ガス業界は、大手ガス会社にとっては独占状態で安泰なものの、町のガス会社にとっては、オール電化の普及と格安競争の波が押し寄せ、顧客流失と利益の低下は勢いを増すばかり。さらに、業界の暗黙の了解で、自分たちの商圏が決まっており、圏外の新規開拓もできず、打つ手なく年々苦しくなっている状況を耐えているだけの会社が少なくありません。

そんな中で、日本中から相談される小さなガス会社があります。埼玉県川口市にある川口液化ケミカル株式会社という、家庭用と業務用ガスやガス機器の販売と工事をされている町の小さな会社です。他社同様に商圏も狭いにも関わらず、商圏外に直接営業することなく、お客様は北は北海道、南は福岡まで日本全国にいらっしゃいます。しかも顧客層は、一般家庭はもちろん、町工場、大手のグローバルメーカー、大学、官公庁など多岐に渡っています。

価格が他より安いわけでもありません。ここでしか買えない特殊な商品・サービスがあるわけでもありません。ここにしかできない特別な技術があるというわけでもありません。
一体、何が違うのでしょうか?

川口液化ケミカル株式会社の代表の外(との)塚(づか)博圭(ひろよし)さんとは毎月お会いさせていただいて2年以上になるのですが、今回改めて今までの歩みをお聞かせいただき、たくさんのヒントがありましたので、ご紹介いたします。

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いやー、まさか、こんなことになるなんて…。5年前から今の状況は、全く想像もできませんでしたね。全国からご相談とご依頼はいただけるようになったのも、本当にみなさんのお陰ですよ。支えられっぱなしです。

 私は、祖父が起こした外塚商店を父親が川口液化ケミカル株式会社として継ぎ、そして私が2000年に三代目として代表に就任しました。
それまでは、ガス関連の会社に勤務していましたので、ある程度、業界のことは知っているつもりでした。しかし、代表に就任してフタを開けてみると、想像もしなかった現実を見ることになります。

 もともと、会社がある周辺には、古くから鋳物工場が多く、父はそこに工業用のガスを提供して、安泰な経営をしていました。しかし私の就任のちょっと前から、工場が次々に閉鎖し、その代わりにオール電化マンションの建設ラッシュが始まりました。それで、経営は一気に悪化していました。

 私も何から手をつけていいのか分からず、とにかくお客様の工場をひとつひとつ周り、御用聞きに伺いました。すると解決策が見つかるどころか「うちも来月閉鎖が決まって」という声もあり、正直「ヤバイ!会社が潰れてしまう」と焦りました。
活路を見出すために、さらに何度もお客様回りをしたり、同業者に話を聞いたりしましたが、低価格競争はますます激しくなり、世の中の流れに逆らうことはできませんでした。特にコレといった打開策がないまま、動けば動くほど、目の前が真っ暗になっていく感じでしたね。

 それでも、社員と家族を養わなければいけないので「どうすればいいのか?」「何をしたらいいのだろう…」「何とかしなければ!」と、毎日ずっと必死に考えていました。
しかし答えは全く出ず、出るのはため息ばかり。考えても何をしたらいいのか分からないので「とにかく、やれることを、全部やってみよう!」と思っていたところに、ある転機が訪れました。 

 ある時、友人と飲んでいるとホームページの話になり「そういえば、うちの会社には、ホームページなかったなぁ」と思い、とりあえず作ってみることにしました。しかし、つくってもらうだけの予算もなく、しかたなくホームページを作れる知り合いにご飯をおごって、カンタンなものをつくってもらうことにしました。

実はそれが会社のターニングポイントになるわけですが、まさか、その時は、ホームページが柱になるとは夢にも思いませんでした。

 当初は、同業や、友人知人、社員、そして家族からも、散々なことを言われました。「ホームページでガスの商売ができるはずがない」「意味が無い。やるだけ時間のムダ」「ガス業界では通用しない」など、数限りないほど否定されました。
でも、その時の私には、他にやることが全く思いつかなくて「でも、やってみなければ分からない。やるしかない」という感じで始めました。

 やってみたら、あることに気づきました。それは、ホームページと言っても、何を書いて形にしたらいいのかわからないことです。以前勤務していた会社で、ガスの機器(アプリケーション)のことは、学んでいたので、ガス機器の使い方をとりあえず書いてみました。それでも、全く反応がない日々が続きました。
周りは、「ほら、私の言った通り!」と言わんばかりに、日に日に反応が冷たくなっていきました。

 そんな時に、第二の転機が訪れます。
当時、メールマガジンをいくつか購読していたのですが、そのひとつに、ひすいこたろうさんの「人生を3秒で変える・名言セラピー」というメルマガを読んでいました。
ある日、何気なくひすいさんのメルマガを見ていると、こんなことが書いていました。
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僕(ひすいこたろう)は、勝手に自分で天才コピーライターと名乗り、名言セラピーのブログをスタートしました。
なにも、自分が天才だと思っていたわけではありません。天才になりたかっただけです。天才だって名乗って、そこから実力をつけようと思いました。そのために、ほぼ毎日書こうと決めました。

名言セラピーを1000本も書くころには、天才になれるのでは?と思って実は毎日配信していたんです。名言セラピー1000本ノックを終えるころには、新しいステージがきっと見えるはずだと思って、この1年半毎日こうしてもくもくと書いています。いまは、メルマガ、ブログ合わせて折り返し地点、名言セラピー500本を超えたところです。実は、新しいステージが見えてきたんです。不思議なことに気づきました。

最初の頃は、メルマガの部数を増やすために、相互紹介をお願いしたり広告もしていました。でも、途中から部数を増やす努力を一切やめました。というか、その時間がとれなくなってきたんです。
結果的に部数を増やす努力をやめて、いますでに読んでくれているあなたの心に響くものを、そしてそれを毎日配信しようということに僕のすべてを注ぎこむことにしました。
すると、気づいたら4000人、5000人、6000人まもなく9000人というところまで自然に増えてきました。(※2011年5月17日現在は、読者26,723人)

新しい読者を増やす努力をやめて、いま読んでくれている読者に、精一杯こたえたいとやり始めたら、増やす努力をしていた頃よりも桁違いに増えていきました。ふしぎ――。 (後略)

2004年8月9日 「人生を3秒で変える名言セラピー」メルマガより
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 このメルマガが大きなヒントになりました。よし!私も何がなんでもまず1000日間続けて、ホームページの中にあるブログを書くことにしよう。読む人はいないかもしれないけど、書けることから書き続けてみよう。そう思って、とにかく始めてみました。

 その当時、社員からは「社長が仕事しないで、趣味で日記を書いている」ぐらいにしか見られませんでしたし、同業者からは「そんなもんで、注文が来たら苦労しないよ」と冷めた言葉を投げかけられました。
たしかに、半年続けても無反応でした。それでも続けて1年がたった頃ようやく、反応がポツポツと現れました。
そしてようやく問い合わせの電話がなり「ホームページを見て電話をしてきた」という方と、お話をしてみると…。最初から「おたくは、どれぐらい安くしてくれるの?」という切り出しで始まり、事情を説明している途中に「なら、いいや。」と、急に電話を切られました。もう、ガックリでしたよ。でも不思議なことに、その時の私には、なんだかある意味、「がんばれー」という応援歌に聞こえて「よし!やってやろう」って自然に思えたんですよね。

 今でもそうですが、お電話でのご相談にも全部無料でお答えしていましたし、その方の近くのお店をご紹介することがほとんどだったので、時間ばかり使って、まったく売上につながらないことばかりでした。社員たちには影で「社長の道楽」とまで言っていたようです。でも、お客様の立場にたってみたら、絶対に間違ったことはしていない確信だけはありました。

 そうやって、とにかく愚直に書き続け、頂いたご相談に親身に乗り続けてから約2年が過ぎた頃。気づいてみれば、会社の電話が鳴る日が続くようになりました。冷やかしなどではなく、みなさんガスに関するお悩みのご相談とご依頼ばかりです。
ブログで書いていることは、ガスとガス機器のことを写真入りで、解説しているのが中心です。そうしたら「あの載っていた写真のところが私も悩んでいて…」との電話がかかってきます。そのときにご相談をいただき、お話させていていただいたことを、さらにブログに書いたりしました。すると今度は別な方から、同じようなご相談の電話をいただいたりしましたね。

 ネタ切れになって書き続けるのが苦しいこともありましたが、お客様の方から「アレ書いてください」とか「コレ教えてください」とのご要望を頂いたりしました。さらに上場企業のメーカーさんのある方から「いつも勉強させてもらっています。うちの社員研修のひとつに、おたくのブログを見るようにというのがあるくらい、活用させてもらっています。ぜひ、続けて欲しいので、よかったら、うちのノウハウを書いてもらってもいいですよ」と言っていただけて、同時に商品ラインナップが増えたりもしました。気づいてみれば応援してくださる人が増え、図面のスペシャリスト、化学的な専門家など、多くの人に支えていただくようになりました。
すると「ガスのことなら、あの人に聞けばいい!」という感じで広がり、さらに、それを見たモノづくりの達人とのお付き合いが始まりました。その達人につくってもらったモノをブログにアップすると、すぐに「そういうことができるなら、ぜひつくってほしい!」とご依頼をいただきました。
ホームページから、思いも寄らないアナログの世界が広がったのが大きかったですね。
当初反対していた人たちは「信じられない、まさかホームページでこんなことになるとは…」と言ったり、中には「俺のおかげだ!」と笑いながら言う方もいましたね。あんなに否定的なことを言っていたのに(笑)。

 続けていると、ホントいろいろなことがありますよ。
当初は、ガスはどこで買っても同じなので、遠方の方なら、お送りするよりも、地元でご購入されたほうが割安になります。電話でご相談をいただき、注文をご希望されても、近くのお店をご紹介したりしていました。中には「それでもいいから、おたくから買いたいからよろしく」とか「同じガスでも、あなたから買うガスは違うから、あなたから買いたいんだよ」と、ありがたいご要望をいただいたことも何度もあります。
さらに「2年前にお世話になったものですけど、今回ぜひ買わせてください」とか「ブログ見て信用しているので、すぐに買わせてほしい」とか「以前、ご相談させていただいたいときは、まだ買えるタイミングではなかったけど、ようやくおたくから買えるくらい大きくなりました。ずっと前からおたくにお願いしようと決めていました。全部お任せしますので、よろしくお願いします」と嬉しいこともありましたし、「友人から、親身に相談にのって、いろいろやってくれる人だから、と紹介してもらいました。困っているのでぜひお願いします。」と買ってくださる方もいらっしゃいました。
他にも「おたく詳しいって聞いたんだけど、質問だけでもいい?」とのお電話をいただき「大丈夫ですよ。少しでもお役に立てるのであれば、ご協力させてください」とご相談に乗ったのですが、その時は相手の立場になってお役に立つことしか考えていませんから、売ろうなんて一切思っていません。でも不思議なことに、それから時間が経って忘れた頃に、買ってくれるんですよね。
あと先程も少し言いましたが、大手メーカーが社員教育に使っていたり、トップメーカーも相談に来たりと、町の小さなガス会社ではありえないことばかり起きています。

 今のようになったのは、やれることをやり続けたことが大きかったんだと思います。でも毎日続けるには、毎日アンテナを立てていないと続きませんね。アンテナを立てていると、向こうから必要な情報が飛び込んでくる感じで、日常の全てに敏感になっていますね。それに、さらにご相談をいただいたいことや、みなさんが困っていることをブログに載せることで、見てくださる方からご相談の電話をいただくことが増えました。私と見てくださる方々のエネルギーがグルグル循環している感じですね。私一人のチカラでは続いてなかったと思います。

 ただガスなんて水物(みずもの)なので、いつ何があるかわかりません。いつ売上が止まってもおかしくない業界です。だからこそ、今やれることをやるしかないんですよね。ご縁を頂いた方に対して、必死に一生懸命にやるだけです。そうやっていたら、自然とつながりが広く深くなりました。
今では毎日、ありがたいことに初めての方々から問い合わせやご相談の電話をいただきますが、新しいご縁ばかり見ていると、今までのご縁をおろそかにしがちです。今まで頂いたご縁を大切にするように心がけていますし、仕事を受け過ぎてご迷惑をおかけすることを避けています。ホームページというデジタルの雲をつかむような世界ですので、ホームページがいつ無くなってもいいように、できるかぎりアナログを意識して、ご縁を大事にしています。今はアナログでの日常のことを、デジタルの世界に乗っけている感じですかね。

気づけば、今日で1970日目(2011年5月17日現在)ですが、振り返ってみると、流れが変わった出来事が3つあります。

 1つ目は、これは私の原点になっていることです。
ブログをはじめて1~2年、少しずつご相談の電話が増えてきた頃の話です。北海道や九州などからもご相談があり「ご相談にはいくらでものりますが、現場での対応ができませんので、どうぞお近くのガス会社さんでご購入ください」とお断りしていました。
そんな中で福岡のある工場の方から「同じものでも、少し高くても、あなたの所から買いたいから、ぜひ一回来てほしい」と熱烈に言って下さいました。でもちょっと事情があってお断りしたんです。なぜなら、実はそのとき、あることで足首を骨折して松葉杖でした。「ちょっと足を怪我していまして…」と言っても「それでも、困っているのでちょっと来てほしい」と言うので「わかりました」と覚悟を決めて、すぐに飛行に飛び乗って現地に行くことにしました。そうしたら向こうの方も私の姿を見てびっくり!「え!松葉杖で来たの?言ってくれればよかったのに」「いや、困っているとおっしゃっていたので…」「わかった、もう全部買うから、見積もり出して!」という流れになりました。そうなることを最初から狙って、行ったわけではありません。ただ純粋に、熱烈なご要望にお応えしたいと思っただけです。結果として、その方は今でもつながりのある太いお得意様になっていますが、そのとき、お客様の生の声に答えるなら、誠意を持ってできることは何でもしようと思うようになりました。この後、やっていることは変わらないのになぜか急に、北は函館、南は福岡と全国にお客様が一気に広がりました。これは未だに私の原点となっている出来事ですね。

 2つ目は、自動車メーカーさんとのお仕事です。
ある日、大手の某自動車メーカーさんから直接お電話をいただきました。すぐに納品をご希望されていました。話を聞くと、どこも断られ、うちに行き着いたとのこと。電話をかけてきた担当者は「出来る限りでいいので」と物腰やわらかい感じだったので、短納期の注文を受けることにしました。すると、すぐに担当者が代わり、聞いていないことや、ムリな要望を次々に列挙され、ただでもギリギリなのに、ご契約の内容をすべて満たすことは明らかに不可能でした。しかし「1日でも遅れたら訴えるからな!」と強引に、大手のパワーで押しきれてしまいました。
正直もう終わったかと思いましたが、ありとあらゆる仲間たちに連絡をとって、助けを求めました。するとみんな「俺たちの意地を見せてやる!やってやろうぜ!」「訴えられるなら、一緒に訴えられてやるから、一緒に最後まで頑張ろう」とみんなが協力してくれました。結果、ちょっと遅れたのですが無事に全部納品でき、あの強烈な担当者も「ありがとうございます。よくやってくれました」と言ってくれました。きっとあの担当者も板挟みになって、とても困っていたのだと思います。実は、あの事件以降、今でもその自動車メーカーさんと付き合いがあり、毎年多くのご注文をいただいています。

 そして3つ目は、官公庁とのお仕事です。
ある日、官公庁さんから直接ご依頼をいただき、ある実験装置を一緒につくることになりました。いつも通り何事も無く納品が終わりました。
しかし、すぐにご連絡をいただき、実験装置の数値データの結果が全くでないというトラブルが発生しました。よくよく見てみると、とんでもない事実が発覚しました。もともとその実験の計測は、原理的に明らかに不可能だったんです。よく調べもせずに安請け合いしてしまったことが原因でした。
仲間たちに相談しても、みんな不可能という返事でした。官公庁の大きなプロジェクトだったので、その時も会社が終わったと思いましたね。
それでもやるしかないと、ホント泣きべそかきながら、ありとあらゆる専門家の方々のお力をお借りしながら、試行錯誤していたら、なんとか数値データも計測されるようになって、無事にプロジェクトが進行することができました。

 実は、先程の2つ目の自動車メーカーさんのご依頼とこの官公庁のトラブルは、ほぼ同じ時期に起きた出来事でした。その半年間、生きた心地が全くしませんでした。辛くて辛くて逃げ出したくてしょうがなかった。でも命までは取られないと腹をくくって、勇気を振り絞ってやりました。結果的にどちらも無事に乗り切ることができて、本当にいい経験させてもらったと思います。

 あの時は夜中「神様、オレ何も悪いことしていないよ!」と泣きましたね。神様から見放されたとも思いましたよ。でも今、振り返ってみると「神様はたしかにずっと見守っていてくれていたんだ。自分のチカラでやっていきたと思っていたけど、自分のチカラなんて微々たるもので、支えてくれるみんなのおかげなんだ。ただただ『お陰さま』しかないんだ」と心底思います。

 振り返ってみれば、ホームページを始める以前もトラブルの連続でしたが、『お陰さま』という感謝の念からは程遠い自分が起こしていたトラブルばかりでした。
当時は、商売は利益をいかに上げるかが大事だと思っていました。ビジネス書を読みまくり、セミナーや勉強会に参加して、最新の手法を取り入れて成長戦略をやっていました。前年比何%アップと全部数字で管理していましたり「願えば叶う」と目標を細かく手帳に書き込み、つねに持ち歩いたりもしました。

 すると、トラブルが次々に襲ってきました。
社員はどんどん辞めていきました。でもそれは、本人の熱意不足だと思いました。
お客様が次第に離れていきました。でもそれは、それ以上に新規顧客の獲得が不十分だと思いました。
家庭も親族もボロボロになっていきました。でもそれは、理解のない家族だと思いました。

 そんな傲慢な私にトドメを指すかのような問題が起きます。
ある社員が、仕事で重大なトラブルを起こします。新聞に大きく載る一歩手前の大事件でした。本人に事情を聞いてみると「オレのせいじゃない。社長がいろいろ言うから…」との言い訳。一瞬で頭に血が登りましたが「いや待てよ!そもそも、こんなに社員にムリをさせていたのは自分だ」とフッと我にかえりました。結局その問題は私が全部責任をもって最後まで真摯に対応し、事なきを得ました。

 あの時の私は、何を見て仕事をしていたのか?
使い切れないほどのお金? 周りからの評価? 単なる自己満足?
お恥ずかしながら、その全てだったと思います。その結果、多くの人たちを傷つけてしまったり、大切なモノを失ってしました。
今は、状況が変わりましたね。今までで家族は一番仲がいいし、社員も信頼しあって楽しく働いてくれます。仲間たちからから支えていただき、お客様にも喜んでいただいています。これも言ってみれば、あの時の数々のトラブルのお陰ですね。

 私の場合は、ガードレールにぶつかりながら、進んできたような人生でした。もちろん自分から当たりに行っているわけではありませんよ(笑)。
前に進むということは、頂いたご縁を大事にすることだとだと思います。
ご縁を大事にするということは、心と心で向き合ってコミュニケーションすることだと思います。心から相手の心に寄り添って、お悩みやご不満やご希望にお答えする。その連続とその積み重ねで、相手のお力をお借りして進んでいくんだと思っています。本当に、お陰さまですね。
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■お客様とスタッフと地域から愛される秘訣

 外塚さんのお話にはたくさんの秘訣がありますが、ここでは愛される信頼関係を築くための3つのポイントについて深めていきます。その3つとは?

1.お客様に役立つような情報を発信する
2.お客様に寄り添い、困っていることや悩んでいることを知る
3.2を分かりやすいように編集加工し、1に戻る

 この3つは、お客様に近づいて、いかに喜ばれることを徹底的に考えて実行するために大切なポイントです。

「1.お客様に役立つような情報を発信する」と言っても、外塚さんのように専門的なことをホームページで発信するような難しいことが必要とは限りません。スタッフみんなで楽しくつくれるカベ新聞や、手書きのニューズレターからはじめてもいいでしょう。

 次の「2.お客様に寄り添い、困っていることや悩んでいることを知る」はとても重要です。お客様に近づき、生の声を直接聞くことです。ほとんどの場合、自分たちが思っていることや提供しているモノ、お客様が求めていることや悩んでいることにギャップがあります。そのためエネルギーの循環が起きずに、お客様に喜んでもらうことも、成果にもつながらなくなります。まるでチェーンが外れた自転車を必死にこぐようなものです。お客様に近づいて、求めていること、悩んでいること、必要としていること、望んでいることを知りましょう。直接ひとりひとりお聞きすることがベストですが、「愛用者の集い」などイベントをしたりして、まずは来てくれそうな人から声をかけてもいいでしょう。

最後の「3.2を分かりやすいように編集加工し、1に戻る」では、編集加工ということころが、ポイントです。なぜなら、せっかく始めても続かなかったらほとんど意味がないからです。続けるためには、自分のスタイルにあったことをやることです。イラストが得意なら、イラストを使うことのもいいでしょう。話すのが得意なら、ホームページで流したり、音声CDにして配るのもいいでしょう。

 外塚さんの話に出てきた、ひすいこたろうさんの例をご紹介します。これは以前、ひすいさん本人が書かれたものです。
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はじめまして。ひすいこたろうと申します。(中略)
社会人になった僕は営業マンとしてスタートしました。でも、人前で話すことも苦手で、僕が説明していると寝てしまうお客様までいました。どうしたら、お客様に僕が思ってることを伝えられるのだろうか? それを探し続けました。そして、ついに見つけたんです。

話すのが苦手なら書けばいい。学生の頃から学んでいた幸せになる考え方も合わせて商品広告を作ってみよう。そして、それをいろんな会社にFAXして伝えていってみよう。すると半年でNO1営業マンになれました。ついに僕は“学んだことを書いて伝える道”に出会うことができたのです。(後略)
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 私は、ひすいこたろうさんとは、デビュー前からのお付き合いをさせていただき、この話も何度か直接伺ったことがあります。A4の紙の全体の3/4にお客様が喜びそうな雑誌の特集をコピーして切り貼りし、周りの余白に自分のコメントを書き入れ、下の1/4に売りたい商品を載せたそうです。載せる特集は、ビジネスマン、スポーツマン、芸能人や女優さんのインタビューの中で「ハッとするような幸せになる考え方や視点」の部分が多かったとのこと。それを各担当者の好みと状況に合うように使い分けてFAXし続けたでそうです。

 ここでもう一度、大切なことは、お客様が何を必要としているのか、直接肌で感じることです。なぜなら進むべき方向は、お客様の声の中にあるからです。その感じたことをベースに、喜んでもらえそうなことを、自分らしく継続できる形でやっていくことです。外塚さんは、ガスに関する問題解決ブログでした。ひすいさんは、幸せになるための悩み解決メルマガでした。

 お客様に寄り添う姿勢であれば、手法は何でもいいのです。ただし、お客様の本位になりすぎて、自ら目指すところを失わないことです。進めば進むほど、より一層大切にすべきものがあります。それが、原点です。

 

■未来をひらくには、原点に立ち戻る

先日、ある女性の歯科技工士さんとお話ししていたときのことです。「印象深かった患者さんはいらっしゃいますか?」とお聞きしたところ、こんなお話をしてくださいました。

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最初に働き始めたクリニックで、あるおばあさんの入れ歯を作ることになりました。ご家族の方から、おばあさんは余命いくばくもなく、いつ旅立ってしまうのか分からないので、美味しい物をいっぱい食べてほしい。というご要望でした。特に難しいものではなかったのですが、いろいろなことが重なり、お渡しするのが予定よりも数日遅れてしました。
早めにお渡ししなければと、ご自宅まで持って行くことにしました。そしてご家族の方にお会いすると、あることを告げられます。
「実は、一昨日、おばあさんが亡くなりまして…」
私は、すっごくショックでした。なんてことをしてしまったんだ、もっと早くつくってお渡しできていれば、おばあさんに美味しい物をいっぱい食べてもらえたかもしれないのに…。そう思うと、涙が止まりませんでした。
ご家族の方に心から謝り、つくった入れ歯をもって帰ろうとすると「いいですよ。ぜひその入れ歯をください。棺桶に一緒にいれますので。それを使って、きっとあの世で美味しものをいっぱい食べるでしょうから。本当に立派な素晴らしい入れ歯を作っていただきありがとうございました。あなたもこれから多くの人の歯をつくって、美味しいものをいっぱい食べるお手伝いをしてあげてくださいね。」と笑顔で言ってくれたんです。
もう涙が滝のように流れました。自分の仕事の重要性は理解していましたが、そのご家族の方の言葉で、私の仕事観は変わりました。
その後、そのご家族の方とは、毎月手紙のやりとりをしていて、私が仕事に疲れてやる気がなくなってきたとき、これからのことを迷っているときに、その手紙を見て、あの時のことを思い出します。すると、スーっと元気がみなぎって働けるんですよ。私にとってアレが原点になっていますね。
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と話してくださいました。

 今から7~8年前、百年企業の創造をお手伝いしている経営コンサルタントの佐藤芳直さんとお食事をさせていただいたとき、こんなことをお話ししていただきました。
「経営の目的は、永続させることにあります。そのために最も必要なのが原点です。だから経営者の方には、『あなたの原点は何ですか?』とよくご質問させていただきます」

 私も数多くの経営者やリーダー、プロフェッショナルの方々とお会いさせていただきましたが、道に迷うことなく周りに喜ばれるようないいお仕事をされている方々は、みなさんいつでも立ち戻れる原点をお持ちでした。

 未来をひらくためには、いつでも立ち戻れる原点が必要です。

原点は、まず仕事のエネルギー充電の場所になります。
原点がないから息切れする。続かない。途中で投げ出してしまいます。
「そもそも、私は何のためにこの仕事をしているんだっけ? そうだった!このためだった」と思い出すだけで元気がみなぎります。それが原点を持っている人の強さです。

そして原点は、判断基準になります。
原点に戻らないから迷う。ズレていく。すべきではないことをしてしまいます。
お客様のご相談やご要望にすべてお答えしようとしたとき、ホームポジション(与えられた役割)から離れてしまうことがあります。たしかに何をすべきかは、目の前の人が教えてくれますが、大切な事は、どこまで何をするのか判断することです。どう判断するかは、原点に戻って見れば自然にわかるはずです。これも原点を持っている人の強さです。

 時代は変われども、原点は変わらず。
不変の原点を持って、万変にあたることです。

自分の原点は何か? 今の仕事をしていて印象に残っていることは何か?
そもそも何のために今の仕事をしているのか?
その不動の原点がもう既に柱として身の内にあるのであれば、今後も続けて大切にしていただきたい。
もしそこまでの原点がないのであれば、まず今、思い浮かぶコトを今の原点にして、ご縁を頂いたお客様に寄り添い、喜んでもらうお手伝いをすることです。そうやって進む中で、より深い原点を思い出すことがあるでしょうし、原点となるような体験をして、より求められる新たなる自分の役割に気づくこともあるでしょう。

こうして変わらない原点に何度も立ち返りながら深めながら、お客様の声の中に進むべき方向を見出すことが、この激動の時代の波に乗るのに必要なことだと思うのです。

現役歯科医師による歯科医院の為の経営マーケティングクラブ「Doing(ドゥーイング)」
小田真嘉の「魅力経営コラム」2011年6月号より